約一週間ぶりの仕事を終え、医局で一息つく。
今日は様子見ということもありオペが無かったのに、思ってた以上に疲労感がある。
スタッフに気を遣わせないように気を張っていたというのもあるが、事務処理の大事さを改めて思い知った。
普段はついつい若手の医師に頼みがちな事務処理が、意外にも手間のかかるものだったのだ。

「神坂先生、珈琲如何ですか?」
「あっ、大丈夫です。ありがとうございます」

書類を届けに来た看護師が声をかけて来た。

暫くは胃腸に負担のかからない生活をしなければならない。
采人は白湯を口にし、休んでいた間のカンファレンス資料に目を通していると、内線が鳴り響く。

「はい、NSの神坂です」
「神坂先生、すみません。救急外来なんですが、現在診察待ちの患者が十名ほどいまして、どなたかヘルプお願い出来ませんか?」
「診察ですか?」
「いえ、これから脳のCTを撮るところなんですが、二週間ほど前に交通事故(TA)を起こし、その時は何ともなかったらしいんですが、一時間ほど前から呂律が回らず、手足が痺れ、嘔吐を繰り返すようになり、ご家族の方が付き添われて来院した患者です」
「分かりました、直ぐに行きます」
「すみません、宜しくお願いします」

采人は急いで白衣を纏い、聴診器を手にして救急外来へと向かう。

神坂総合病院は三次救急対応の病院だが、救急外来(時間外診療)もあるのだ。
急な発熱や腹痛など、一般患者の受け入れも行っている。

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「赤石先生、すみません、時間外に」
「いえ、大丈夫ですよ。患者の検査データを確認させて下さい」
「CT画像がこれです」

采人が連絡を入れたところ、三十分ほど前に退勤した赤石と連絡が繋がった。
脳のCT検査をした結果、硬膜下血腫と診断が下り、緊急オペを要することとなったのだ。