極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む

「お疲れ様」

 耳慣れた重低音が聞こえ、スマートな靴音が近づいてきた。
 私と理沙が後方に視線を向けると、白衣を身に纏った長身の男性が颯爽と歩いてくる。

「お疲れ様です、篠宮先生」

 理沙の声のトーンが上がった気がするのは勘違いじゃないだろう。
 やって来たのは心臓血管外科医の篠宮拓海(しのみやたくみ)先生だ。
 清潔感のある短めの黒髪からはナチュラルな眉が覗き、切れ長の一重瞼の目は薄い涙袋が入っていて穏やかな印象を醸し出している。
 精巧に造られた人形のように整った鼻筋と唇はバランスがよく、シャープに尖った顎先が男らしい。
 彼はこの桜ヶ丘総合病院の院長のご子息――つまりは跡取りであり、院内随一のイケメンと言われている有名人だ。
 スタッフにも患者にもファンは多く、理沙も『篠宮先生推し』のひとり。
 かく言う私も先生の憧れている女のひとりだけれど、理沙や他のスタッフのようにキャーキャーと黄色い声を上げることはない。
 こっそり憧れを抱いているだけの、気持ち悪い隠れファンだ。