極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む

「もしかして鍵を返しにきたのか?」
「は、はい。早く返さなきゃと思って。仕事中だと返すタイミングも難しいので。それと、お話したいことが……」

 濁しながら視線を泳がせ、少し沈黙した。
 篠宮先生は腕時計に目をやる。

「少し待っていてくれ。準備してくる」
「準備?」
「ちょうど上がろうと思っていたんだ。十五分後に地下駐車場の入り口で」

 返事をする前に、先生は足早に去っていく。
 私はそれをぽかんと見送った。
 ここで話しづらいことであるのは確かなのだし、先生はそれを汲んでくれたんだろう。
 つくづく申し訳ない。
 十五分後、先生は時間ぴったりにエレベーターから降りてきた。

「待たせたか?」
「いえ、先生まだ仕事があったんじゃないですか?」
「いや、カルテの確認だけしたら今日は早めに帰ろうと思っていたから、ちょうどよかった」

 即答してくれたためホッとした。
 あれだけ迷惑をかけた上、仕事の邪魔までしたら最悪だ。
 篠宮先生は院長の息子なんだから、彼の機嫌を損ねれば、せっかく希望が通って異動できたGCUから追い出される可能性だってある。
 下手をしたらクビだ。
 ぐるぐるとマイナスな思考が巡って再び胃が気持ち悪くなっている。
 そんな私の心の内に気づくわけもない先生に促されるまま、車へと乗り込む。
 発進した車は緩い上り坂をあがり、外に出る。
 八月ももうすぐ半ば。
 外は猛暑の毎日だ。