元気(げんき)くん、今日はママに会えてよかったね。明日もまた来るって言ってたよ。ねんねの時間と被らないといいねえ」

名前が付けられて間もない元気くんに話しかけながら、新生児用よりさらに小さなサイズのおむつを付け替える。
元気くんは大きな黒目に天井のライトの光をキラキラと映し、ご機嫌に細い手足を動かす。
その名前の通り活発な男の子で、胸や足に取りつけられた機器がずれ、モニターを鳴らす常連だ。
体重は順調に増えてきているし、呼吸状態に問題がないと判断されれば、そう遠くないうちに退院の目処がつくだろう。

「小鳥遊さん、もう18時半よ。そろそろ上がって」
「え?」

2つ年上の看護師、上原由香(うえはらゆか)さんに声をかけられ、壁掛け時計に目をやる。
本当だ。もう18時半…
今日は19時から友人と会う約束もあるのに、時間なんて気にしていなかった。

「申し送りは終わってるんだから、あとは私が代わるわよ」
「はい…時間ってあっという間に過ぎちゃいますね」

名残惜しくて元気くんに目をやると、上原さんはくすくすとやさしく笑う。

「小鳥遊さんは本当に子どもが好きね。注意しなきゃ24時間ここで働いてそうだわ」
「そうかもしれないです。かわいいのはもちろんですけど、容体が心配なベビーもいますし。家にいてもそわそわしちゃいます」
「いいお母さんになりそうね、小鳥遊さんは」
「…なれたら、いいんですけどね」

複雑な気持ちになって、曖昧に微笑みながら返した。
いつかお母さんになれたらいいんだけれど…無理だろうなあ。
小さくため息が漏れた。