『いや、あのさあ……お前胸ちっちゃいな。小学生みたい』
笑いながら彼にそう言われて、頭が真っ白になった。思わず突き飛ばしてバッグを手に取り、彼の部屋から逃げるように去った。
次の日から、私は学校に行かなくなった。彼が学校で友人たちに言いふらして、私を笑いものにしているかもしれないと思ったから。両親はそんな私を見て、いじめに遭っているとでも勘違いしたようだ。転勤を機に引っ越して転校することを提案してくれた。私はその話に飛びついて転校したため、あの日以来彼とは会っていない。
転校してからは今までよりも多くパットの入った下着をつけ、偽物の胸だと気づかれないように細心の注意を払って生きてきたのだ。
ざっくりと事情を話すと、先生は手を顎に当てて何か考えている様子だった。返ってくる言葉がどんなものなのかを考えると胃が痛くなる。ドキドキしていると、数秒後、先生の口から出てきたのは全く予想外の言葉だった。
「つまり君はその男とセックスをしなかったということだな?」
「セッ!?」
「そしてそれからも、『細心の注意を払って』いたということは、性交渉の経験がないということか?」
「せっ!!」
『せ』というおかしな単語が、二度広い室内に響いた。
こんなの、経験がありませんとすでに言っているようなものだけれど、一応小さく頷く。
「だって、誰にも見せられないですし……見られたら不快に思われるでしょうし……」
言い訳がましくもごもごと口にする。顔じゅうが熱い。きっと今、私の頭上には湯気が立ちのぼっていると思う。二十七にもなって経験がないなんて、女性経験豊富であろう先生から見たらびっくりする話だろう。私の周りに未だに処女だなんていう友人はいないし、自分が特異なのはわかっている。
「君には今、恋人や好きな男はいるのか?」
「え? ……いえ」
かぶりを振った。好きなひと……強いて言うなら、目の前にいるこのひとが一番……なんて頭をよぎったけれど、本人に言えるはずもない。
「その彼との件があってから、恋愛に臆病になってしまったので……」
「だが、君に結婚願望はないのか? 子どもだって好きだろう」
ギクッとした。ベビーの世話をしていると、時々考えてしまうのは確かだ。よその親御さんの赤ちゃんがこんなにかわいいなら、自分の子どもは……自分と好きな人との間の子どもはどれほどかわいいんだろうと。
けれど。
力ない笑いが零れた。
笑いながら彼にそう言われて、頭が真っ白になった。思わず突き飛ばしてバッグを手に取り、彼の部屋から逃げるように去った。
次の日から、私は学校に行かなくなった。彼が学校で友人たちに言いふらして、私を笑いものにしているかもしれないと思ったから。両親はそんな私を見て、いじめに遭っているとでも勘違いしたようだ。転勤を機に引っ越して転校することを提案してくれた。私はその話に飛びついて転校したため、あの日以来彼とは会っていない。
転校してからは今までよりも多くパットの入った下着をつけ、偽物の胸だと気づかれないように細心の注意を払って生きてきたのだ。
ざっくりと事情を話すと、先生は手を顎に当てて何か考えている様子だった。返ってくる言葉がどんなものなのかを考えると胃が痛くなる。ドキドキしていると、数秒後、先生の口から出てきたのは全く予想外の言葉だった。
「つまり君はその男とセックスをしなかったということだな?」
「セッ!?」
「そしてそれからも、『細心の注意を払って』いたということは、性交渉の経験がないということか?」
「せっ!!」
『せ』というおかしな単語が、二度広い室内に響いた。
こんなの、経験がありませんとすでに言っているようなものだけれど、一応小さく頷く。
「だって、誰にも見せられないですし……見られたら不快に思われるでしょうし……」
言い訳がましくもごもごと口にする。顔じゅうが熱い。きっと今、私の頭上には湯気が立ちのぼっていると思う。二十七にもなって経験がないなんて、女性経験豊富であろう先生から見たらびっくりする話だろう。私の周りに未だに処女だなんていう友人はいないし、自分が特異なのはわかっている。
「君には今、恋人や好きな男はいるのか?」
「え? ……いえ」
かぶりを振った。好きなひと……強いて言うなら、目の前にいるこのひとが一番……なんて頭をよぎったけれど、本人に言えるはずもない。
「その彼との件があってから、恋愛に臆病になってしまったので……」
「だが、君に結婚願望はないのか? 子どもだって好きだろう」
ギクッとした。ベビーの世話をしていると、時々考えてしまうのは確かだ。よその親御さんの赤ちゃんがこんなにかわいいなら、自分の子どもは……自分と好きな人との間の子どもはどれほどかわいいんだろうと。
けれど。
力ない笑いが零れた。


