十五分後、先生は時間ぴったりにエレベーターから地下駐車場へと降りてきた。
「待たせたか?」
「いえ、先生まだ仕事があったんじゃないですか?」
「いや、カルテの確認だけしたら今日は早めに帰ろうと思っていたから、ちょうどよかった」
即答してくれたためホッとした。あれだけ迷惑をかけた上、仕事の邪魔までしたら最悪だ。篠宮先生は院長の息子なんだから、彼の機嫌を損ねれば、せっかく希望が通って異動できたGCUから追い出される可能性だってある。下手をしたらクビだ。ぐるぐるとマイナスな思考が巡って再び胃が気持ち悪くなっている。
そんな私の心の内に気づくわけもない先生に促されるまま、車へと乗り込む。
発進した車は緩い上り坂をあがり、外に出た。
八月半ば。もう夕方なのに、地面を照り付ける太陽は鋭く光を放っている。
「二日酔いは大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。ご迷惑ばかりおかけして本当に申し訳ありませんでした」
運転している先生には見えないと思いつつ大きく頭をさげると、ふっと小さい笑い声が空気を揺らした。
「半口開けて気持ちよさそうに寝てたぞ」
「は、半口……」
「いつよだれを垂らすかと思ってた」
「た、垂らしましたか?」
先生は意地悪に口角を上げ、「どうかな」とちらりとこちらを見た。
うう……そんな姿を見られていたなんて恥ずかしすぎる。異動だとかクビだとか以前に、篠宮先生は私の憧れのひとなのだから、先生の前で失態を晒したくない。……もう遅いか。
そういえば私、先生のマンションに着いたときの記憶も全くない。
「先生、もしかして私を部屋に運んでくださったんですか?」
「当然だろう。他にどうすればいいんだ」
血の気が引いた。
私今何キロあるんだっけ? しかも昨夜は飲みながらおつまみもけっこう食べたはずだから……。ああ、恥ずかしい。
「すみませんっ重ね重ねご迷惑を」
へこへこと頭を下げる。
「これに懲りて酒は少し控えるんだな」
「そうします……というかもう二度と飲みません」
「二度とは言い過ぎだぞ」
「いえ、そのくらいの心持ちでいないと」
先生はくっくっと笑っている。私、そんなに面白いことを言っただろうか。篠宮先生は医療スタッフに対してあまり笑う印象はないから、なんだか意外だ。
「待たせたか?」
「いえ、先生まだ仕事があったんじゃないですか?」
「いや、カルテの確認だけしたら今日は早めに帰ろうと思っていたから、ちょうどよかった」
即答してくれたためホッとした。あれだけ迷惑をかけた上、仕事の邪魔までしたら最悪だ。篠宮先生は院長の息子なんだから、彼の機嫌を損ねれば、せっかく希望が通って異動できたGCUから追い出される可能性だってある。下手をしたらクビだ。ぐるぐるとマイナスな思考が巡って再び胃が気持ち悪くなっている。
そんな私の心の内に気づくわけもない先生に促されるまま、車へと乗り込む。
発進した車は緩い上り坂をあがり、外に出た。
八月半ば。もう夕方なのに、地面を照り付ける太陽は鋭く光を放っている。
「二日酔いは大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで。ご迷惑ばかりおかけして本当に申し訳ありませんでした」
運転している先生には見えないと思いつつ大きく頭をさげると、ふっと小さい笑い声が空気を揺らした。
「半口開けて気持ちよさそうに寝てたぞ」
「は、半口……」
「いつよだれを垂らすかと思ってた」
「た、垂らしましたか?」
先生は意地悪に口角を上げ、「どうかな」とちらりとこちらを見た。
うう……そんな姿を見られていたなんて恥ずかしすぎる。異動だとかクビだとか以前に、篠宮先生は私の憧れのひとなのだから、先生の前で失態を晒したくない。……もう遅いか。
そういえば私、先生のマンションに着いたときの記憶も全くない。
「先生、もしかして私を部屋に運んでくださったんですか?」
「当然だろう。他にどうすればいいんだ」
血の気が引いた。
私今何キロあるんだっけ? しかも昨夜は飲みながらおつまみもけっこう食べたはずだから……。ああ、恥ずかしい。
「すみませんっ重ね重ねご迷惑を」
へこへこと頭を下げる。
「これに懲りて酒は少し控えるんだな」
「そうします……というかもう二度と飲みません」
「二度とは言い過ぎだぞ」
「いえ、そのくらいの心持ちでいないと」
先生はくっくっと笑っている。私、そんなに面白いことを言っただろうか。篠宮先生は医療スタッフに対してあまり笑う印象はないから、なんだか意外だ。


