極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む

「小鳥遊さん」

 パッと顔を上げると、向かいから長身の男性が歩いてきた。
 背が高く足の長い彼は恐ろしくスーツ姿が様になっていて、人ごみの中でも明らかに周囲とは違う洗練されたオーラを放っている。
 白衣でもスクラブでもないから、一瞬誰かと思った。

「篠宮先生……」
「先生?職場の?」

 さすがに職場のひとにこんな状況を見られるのはよくないと思ったのか、男はパッと私の腰から手を離した。
 途端に強張っていた身体の力が抜ける。
 篠宮先生は、無表情のまま私と男を交互に見て口を開いた。

「ちょうどよかった。小鳥遊さんに仕事の件で確認があったんだ。彼女を連れて行っていいかな」
「えっ」

 私と男の声が重なった。

「小鳥遊さん、いいか?」
「は、はいっ」
「行こう」
「そういことなので、すみませんっ」

 ぽかんとしている男に頭を下げ、篠宮先生の元へと寄る。
 背中に「なんだよ」という低い声と舌打ちが聞こえた気がしたけれど、確かめる余裕もない。

「だいぶふらついてるな。俺の腕につかまれ」
「そんなっ大丈夫ですよ」
「ここで転んだら恥ずかしいだろう」

 確かに、もし転んだら一緒にいる先生にも恥をかかせてしまう。
 すれ違う女性たちの熱い視線が先生に向けられているのを感じるから、なおさらだ。

「それじゃあ、失礼します」

 先生が軽く浮かせてくれた腕に手を添えて歩き出す。
 時折こちらを気にかけてくれる視線を感じ、私に合わせてゆっくり歩いてくれているのがわかる。
 私、そうとう酔って夢を見ているんだろうか。
 このシチュエーションはまるでデート……実際はただの介助なのだけれど、とにかくありえない事態が起きている。