けれど、ただ聴くだけで終わるわけもなかった。
『橘花ってさ、警戒心ないよね』
初めて瀬能に唇を奪われたのは、音楽室に通って3回目のとき。
本当に不意だった。
瀬能のピアノを聴いて、少し話して、わたしは先に帰ろうとしてた。
ドアに手をかけたときに、後ろからそんな言葉が聞こえて。
振り返った瞬間に、ちゅ、と。
直後、もちろん瀬能のお腹にはわたしの渾身のグーパンをお見舞いした。
それ以降は、もう2度とキスされるもんかと防御体制に入っていたはずなのに。
……彼が、上手いことわたしの心に入り込んできたから。



