『───なんであんたがこんなとこにいんだよ』
家じゃ勉強に集中できなくて、わたしは学校にいた。
その日は特別暑い日で、教室の窓は全開。
グラウンドから部活動をする生徒の声しか聞こえない中で、微かにピアノの音色が聞こえてきた。
から、その音を辿ってきた。
2階の廊下の奥。今は使われていない旧音楽室。
普段は鍵がかかっているはずのそこは、ドアが僅かに開いていて。
『……瀬能?』
そこには、普段わたしが風紀委員として口うるさく声をかけていた問題児の姿があった。
大きなグランドピアノ。
その椅子に腰掛け、繊細なメロディーを奏でている派手な髪色の瀬能遊という男。
その違和感は満載で、あのときの衝撃は今でも憶えている。



