「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

 彼女の目には、涙さえも浮かんでいる。お父様という恐ろしい存在に、心から怯えているのだろう。呼吸は荒く、体も震えている。

「こっ……お、覚えていなさいっ!」

 最後にそれだけ残して、夫人は早足で玄関から出て行った。
 その非常に情けない敗走に、私は思わずロンダーと顔を見合わせるのだった。

「なるほど、あれが例のランカーソン伯爵夫人か。思っていたよりも、ずっと大したことがない女だったな……」
「お父様、流石です」
「褒められるようなことなど何もない。むしろ、あのような女にたぶらかされている男がいるという事実の方が衝撃的だ」

 ランカーソン伯爵夫人を敗走に追いやったお父様は、嬉しそうにすらしていなかった。
 それはきっと、お父様にとってあの程度の人を退けるのは当然だったからなのだろう。なんというか、少し喜んで声をかけてしまった自分が恥ずかしい。