「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

 もちろん彼に同情の余地はないが、それでも夫人の行動には腹が立つ。彼女は、敢えてこの場でそれを告げたのだ。アルペリオ侯爵令息が、最も屈辱を受ける場を選んだのだろう。

「あなたには色々なことを教えてもらったわね。ほら、例えばそこにいるランペシー侯爵が、懇意にしている若い商人から羨望の眼差しを向けられているとは……」
「なっ……!」
「でも、侯爵はそれをわかっていて受け流しているだとか、ふふ微笑ましいですね。でも、もっと微笑ましくないことも知っていますよ?」

 そこで夫人は、ランペシー侯爵に視線を向けた。
 恐らく、今の牽制であるだろう。ランペシー侯爵家の秘密を握っている。それを示しているのだ。
 ランカーソン伯爵夫人は、本当に狡猾な人である。私はそれを改めて実感していた。

 ただ、同時に私は気付いていた。
 エルライド侯爵――我らがお父様が、彼女に鋭い視線を向けているということに。