「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

 件のランカーソン伯爵夫人が、こんな所にいるなんて思っていなかった。
 私は、ゆっくりと息を呑む。突然のことに、思考が追いついて来ない。どうして寄りにもよって、このタイミングで彼女も市を訪れているのだろうか。

「姉上、落ち着いてください。別に気にする必要はありませんよ。あちらはこちらのことを知らないんですから」
「……あら?」

 ロンダーの言葉の直後、ランカーソン伯爵夫人がこちらを向いた。
 彼女は、笑顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。どうやらロンダーの予想に反して、彼女はこちらのことを知っているらしい。

「これはこれは、あなたはレミアナ・エルライド侯爵令嬢ではありませんか」

 こちらにやって来たランカーソン伯爵夫人は、私にそのように話しかけてきた。
 彼女は、何故か楽しそうに笑っている。それはなんというか、私を少し見下したような笑みだ。