「見間違いなんじゃないの?」

ミルクのおいしそうなパンをパクッとかじった美月が冷静に答えた。

四条美月(しじょうみつき)、真ん中で前髪を分けたボブヘアのサバサバさっぱりな性格の1番仲のいい友達。

「見間違い!?なんてあるかな、だってずっと一緒にいたんだよ!」

お昼休み、教室の隅っこの机で美月と向き合ってお弁当を食べる。

どうしても昨日のことが忘れられなくて全然お弁当に手がつかなくて箸だって置いたまま。

「豹変だよ!?目なんかこんなつり上がっちゃって、口も態度も悪くて!」

身振り手振りこの消化しきれない気持ちを必死に話した。

「しかもそれを覚えてないとかありえないよね!?」

「だから紫衣の見間違いなんじゃないの?」

「見間違えるって何を!?」

「寝てたとか?」

「夢の話じゃないよ!!」

ダメだ、全然伝わらないよ。

彗くんにも伝わらなかったけど美月にも伝わらなかった。

「だって見てみなよ」

美月がスッと視線を変えた。

振り返ってその視線の方に体の向きを変える。

「……。」

そこには教室の中心で友達と話しながらおにぎりを頬張る彗くんがいた。

ニコニコと笑って、大きな声で喋って、たまにリアクションが大きくて、そんな彗くんの周りにはたくさん友達がいてすごく楽しそうにふざけ合っていた。

「どこからどう見ても柏木じゃない?」

「それは…そーなんだけど」

“今日は”間違いなくいつもの彗くんだと思う。

瞳の開き具合も違えば声のトーンも全然違うから…、全然違うから変なんだよ。