「あさみん、そろそろ行くぞ」
 いつまでも神前にはりついているわたしを見かねたのか、小鳥遊(たかなし)部長がわたしに声をかけてきた。
「すみません、今行きまーす!」
 あわてて部長のあとを追う。

「あの、部長」
「なんだ?」
 部長がくるっとわたしのほうをふり返る。
「部長は、なにをお願いしたんですか?」
 やっぱり、次の大会の優勝とかかな?
 すると、部長はナゾめいた笑みを浮かべて。
「ナイショ」
 と、ひとことだけ。

「えぇーっ、教えてくれないんですか?」
 他のみんなは教えてくれたのに。
 ムスッ、と口をとがらせるわたしを、部長はおもしろそうに見つめながら。
「だって、願いってすぐに口に出したらかなわないっていうじゃん。だから、願いをかなえるまでは自分の胸にしまっておきたいんだよ」
 部長らしい、クールな答えだなぁ。
 でも、部長の願いごと、できることなら聞いてみたかったんだけど。

「ほら」
 部長が、わたしにあたたかい甘酒が入った紙コップを手渡してきた。
「これは?」
「オレからあさみんへのエールだ。オーディションまで、あと一週間しかないんだろ? 合格祈念に乾杯しよう」
 と、わたしのコップに自分のコップをかち合わせた。