だけど、これまで演技なんか未経験のわたし。
 小学校の学芸会のときには、背景用の絵を持つ係でセリフはひとこともなし。
 演劇部に入った当初は、セリフを言うだけでも当然そうとう苦労したわけで。

「あさみん、ヘンに声作るな。そのままでいいんだ、そのままで」
「セリフだけに集中するな。ちゃんと動作も意識しろ」
「こらー! また舞台の後ろに引っこんでる。バミリテープの位置忘れんな!」
 小鳥遊(たかなし)部長には毎日のように怒られてばかり。

 めげずにがんばろうとしたけど、とうとう限界がきたことがあって。
「わたし、やっぱり人前に立つなんてできません。声のことで笑われたりしたらイヤだし!」
 体育館の舞台の上で、人目もはばからずワンワン泣きわめいたわたし。
 部長からは、
「もう辞めていいぞ」
 って、さじを投げられると思ってた。

 だけど、部長はいつものように冷静な顔つきで。
「しっかりしろ。キミの声が悪いから笑われるんじゃない。笑ってくるヤツの性格が悪いだけだ。心ないヤツらにまどわされるな」
「でも……」
 まだ不安がぬぐえないわたしに、
「あさみん、自分の声を信じろよ。今はうまくいかないことがばかりかもしれないけど、続けていれば、その声が思いも寄らなかった場所に導いてくれるから」
 と、部長は断言した。