小さなころから自分の声がずっとコンプレックスだった。
「あっははは、ヘンな声!」
 クラスの男子には、しょっちゅうからかわれて。
「そんなこと言わないで!」
 って怒っても、
「ソンナコトイワナイデ、ソンナコトイワナイデー!」
 調子にのって声マネしてきて、からかいはますますひどくなるいっぽう。
 ときには担任の先生にまで、
「まあ、あなたの声ってマンガみたいねぇ」
 って笑われたりして。

 だから、ずっと人前に出るのがいやだった。
 歌うのも、話すのも。
 ましてやお芝居なんて、わたしには一生縁がないと思ってた。
 だけど、高校に入学して、はじめて小鳥遊(たかなし)部長に出会ったとき。
 わたしの人生はガラッ! と一変した。

「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために!」
 友だちのつきそいで演劇部の見学に行ったとき。
 そこに、ヒーローがいた。
 たなびくマントも、剣もなにもない。
 わたしたちと同じ、ただの制服姿なのに。
「わが名はアトス。誇り高き三銃士のひとり!」
 凛とした瞳。さっそうとしたたたずまい。
 中世のフランスから、そのままタイムスリップしてきたようなアトス――小鳥遊(たかなし)部長の姿がそこにあった。