ほんとうはオーディションに合格した喜びに包まれながら、満面の笑顔を浮かべて演じたかった。
 成長した姿を小鳥遊(たかなし)部長にしっかりと見てもらいたかった。
 
 部長のおかげで、声を出すことが苦手だったわたしも、演じることの楽しさを知りました。
 コンプレックスだった自分の声を魅力のひとつだと気づかせてくれた部長。
 わたしにとって、あなたこそがかけがえのない存在なんです!
 そう自信をもって伝えたかったのに。
 こんな涙声でカミカミな、かっこ悪い形で披露したくなかったな……。

「やっぱりまだまだですよね? こんなみっともない演技じゃ、合格なんて――。神さまに見放されるのもムリないか。きょ、今日はもう失礼しますっ」
 わたしは、泣きはらした目のまま、部室から帰ろうとした。
 だけど、そのとき。
 後ろから、グイッと腕をつかまれた。
 びっくりしてふり向くと、小鳥遊(たかなし)部長がポンッ、とわたしの頭に手をのせて。
「がんばった。よくがんばったよ。あさみんがこれまで一生けん命努力してきた姿、オレは誰よりも見てきたんだ。それこそ、神さまよりもずっとな」
 
 よしよし、とわたしの頭をなでる部長。
 その顔は、とってもやさしくて。
 悲しいわけじゃないのに、さっきよりもますます涙があふれ出た。