8月に行われる音楽イベントのリハーサルが始まった。

イベント前日、最後のリハーサルは夕方5時から。

全曲を通して演奏し、一段落したところで少し休憩をすることになった。

「…私、飲み物買ってきますね」

鈴原さんがそう言って部屋を出た。

ひとりになった俺は、部屋の隅にあるソファに腰を下ろした。

今日は別件の仕事もあって朝からずっと慌ただしかったから、少し疲れたな。

静かになった部屋でひとり目を閉じると、それまで我慢していた眠気が一気に訪れた。

―――………

「……る……由弦…」

誰か俺の名前を呼んでる…?

今も忘れられない愛しい声。

「……夏音……?」

そっと呟いた声。

でも、そこに夏音はいるはずもなく。

ゆっくりと開けた目に映ったのは、楽器や機材だった。

そうだ、今はリハーサル中だったんだ。

慌ててソファから立ち上がると、ブランケットが床に落ちた。

誰かが持ってきてくれたんだろうか。