いつもは、共演するアーティストの歌を聴きこんで、そのアーティストに合った音を時間をかけて作りこんでいく感じだけど、鈴原さんの場合は、深く考え込まなくても歌を聴くと自然にメロディーやフレーズが浮かんできた。
「鈴原さんと由弦は、音楽的センスや価値観が似てるんだろうな。それに……」
そこで一色さんが遠慮がちに言葉を切った。
「鈴原さん、見た目も雰囲気も……夏音ちゃんに似てるよな」
「……!」
やっぱり、そう思ってるのは俺だけじゃないのか。
夏音の存在を知っている一色さんもそう思っているってことは、気のせいじゃなくて本当に似ているっていうことなんだろう。
「だからっていうわけじゃないけど、俺は由弦には鈴原さんが合うと思うな」
「え?」
「もう8年経つんだし、そろそろ由弦も幸せになってもいいんじゃないか?」
「………」
一色さんの言葉に、俺は何も返さず無言で窓の外の景色に視線を向けた。
夏音を忘れて、他の誰かと一緒になることが幸せだとは思えないから。
8年経っても何年経っても、俺は夏音のことが好きだ。
その気持ちはこれからも変わることはないと思っていた。
この時は、まだ。