「遠坂さん、夏のイベントもよろしくお願いします」

鈴原さんが、少し戸惑ったようにこちらに視線を向けてそう言った。

「うん、こちらこそ」

俺も苦笑しながら返した。

「鈴原さん、ホントにいい子だな」

帰りのタクシーの中、一色さんがしみじみと呟いた。

今日はふたりとも飲んでいるから、タクシーで自宅まで向かっている。

「それに、彼女の歌はホントにすごいし。あれは、由弦が興奮するのもわかるよ」

「だからって本人にああいうこと言うのはやめて下さいよ。鈴原さんもどう反応していいか困ってたし」

「そうか? 大先輩の由弦に認められて嬉しいって喜んでたじゃないか。鈴原さんもレコーディングの時から由弦のこと絶賛してたし。改めて思ったけど、ふたりの音の相性バッチリだよな。由弦の本当の音が聴けた気がする」

「本当の音?」

「なんていうか……気負ってる感じじゃなくて自然体で演奏してた」

一色さんの言葉は、まさに自分で思っていたことだった。