「由弦に新しい仕事のオファーが来てるんだけど」
レコーディングスタジオの一角にある休憩室。
缶コーヒーを飲みながら、マネージャーの一色さんが言った。
一色さんは5歳上で、3年前から俺の専属マネージャーとして一緒に仕事をしている。
「新しい仕事?」
「鈴原 結音ってシンガーソングライター知ってるか?」
「いや、知らないけど」
この業界にいれば新人の情報も早く耳にする機会が多いけれど、聞いたことのない名前だ。
「オーディション番組出演がきっかけでデビューが決まったアーティストらしい。その鈴原さんの新曲のレコーディングでギターを弾いてほしいって鈴原さんが所属する事務所から依頼が来たんだ。5月の連休中にレコーディングするらしくてスケジュール的にはかなり急だけどな」
「そうだな」
「うん。なんでも、楽曲の大型タイアップが決まって、急遽レコーディングがすることになったらしい。どうする?急な話だし、断っ
てもいいけど」