「由弦、これ落ちてたぞ」
マネージャーの一色さんからそう言われて差し出されたのは、1枚の写真。
聞かなくても、何かすぐにわかる。
夏音の高校時代の写真だ。
いつのまに落としていたんだろう。
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取ると、スケジュール手帳の中に挟んで、鞄の中に入れた。
もしかしたら昨日、ミーティングで手帳を広げた時に落としたのかもしれない。
「なぁ、由弦。今もおまえは、夏音ちゃんのことしか好きになれないか?」
突然の核心をついた質問に思わず顔を上げると、一色さんが真剣な表情で言葉を続けた。
「本当は気づいてるだろ? もう、お前の中で夏音ちゃんの存在は過去になってること。そして、今そばにいたいと思っている人がいること」
「………」
そう、本当は気づいてる。
初めて出会ったあの日から、少しずつ変わり始めた気持ちに。
でも、ずっと気づかないふりをしてた。
踏み出すのが怖くて。
俺は、夏音以外好きになってはいけないと、自分で自分の心を縛り付けていた。