「先輩、これは……?」
「こんな状況で、婚約者を置いて帰る男がどこにいるの」
「え……っ」
ドクンと、心臓がうれしがった。
先輩にしては珍しい言葉。
さっきの事件で私が傷ついてると思って、甘い言葉をかけてくれてるのかな?
「優しいですね、せんぱ、」
「アンタを置いて帰った所を、もし誰かに見られたらどうすんの。俺の信頼ガタ落ちでしょ。婚約者の俺を立てろって言ってんの」
「あ、はい……」
そうですよね。
先輩は、そういう人ですよね。
どんな状況であれ自分第一ですもんね。
はぁ。
少しでもトキめいた私がバカだった……。
しょんぼりと、先輩の背中に近づく。
「早くしなよ」とせっかちな声を聞きながら、その肩に両手を乗せた。
わぁ……。
私とは全然ちがう、広い肩。ゴツゴツして硬い。
それと……
「聞き間違いかな?」って思うほど、とっても小さい先輩の声も。
「なにが〝先に帰って〟だよ。俺がいるんだから頼ればいいのに、ムカつく」



