「わ、すみませ、」

「名前」

「え?」


見上げると、先輩のムスッとした顔。


「〝名前で呼ぶこと〟って言ったけど?」

「あ、はは……すみませんでした。ひ、響希さん……」

「……うん」


すると響希さんが私を離す。

表情は変わらないけど、なんだかご機嫌になった?


「あと、分かってると思うけど、時山先輩と笹岡には、」

「近づかない、ですよね。でも体育祭が終わるまでは、多少のことは許してほしいです。笹岡とは同じ実行委員ですし……」


体育祭が終わったら近づかないようにするので――と言った私に、響希さんは再びため息。


「分かった、ただし。

凪緒が傷つけられないこと。これが絶対条件」

「え……?」

「凪緒が少しでも傷ついたら、すぐ離れること。返事は?」

「……っ」


真剣な目の響希さんから、目が逸らせない。顔を赤くしたまま、コクンと頷いた。

すると響希さんは満足げに口を横に伸ばし、玄関のドアを開ける。だけど「あ」と、外に出した足を引っ込めた。


「……今度こそ忘れ物ですか?」

「じゃなくて……、いってきます」