「……」
「……」


初対面の二人。
だというのに、二人の間に流れる空気は、驚くほど冷たい。

まるで冷気が漂っているような。
そんなバシバシした鋭い空気が、二人を包む。

このまま何もなくすれ違うか――と思った矢先。

「あのさ」と。
先輩が口を開いた。


「あまり凪緒をイジメるようなら、俺が黙ってないけど?」

「……はは。誰がイジメてるのか、もう一度考えてみろよセンパイ。

アンタ絡みで、どれだけ丸西が傷ついたと思ってんだよ。本当に大事に思うなら、もっと優しくしろや」

「優しく、ねぇ……。お前の言う優しさって、凪緒を傷つけることなの?」

「は?」


笹岡を見下ろす先輩。
先輩を見上げる笹岡。

睨んだ瞳は、空中で静かにぶつかり合っている。


「自分だけが満足する優しさが本当に正しいと思うなら、何年かかっても凪緒をオトす事は出来ないよ。

ま、奪わせないし、俺以外の奴を好きにもさせないけどね」

「〜っ」


ギリッと奥歯をかみ、悔しい表情を浮かべる笹岡。

対して先輩は口角をひょいと上げ、いつものニコニコ顔に戻った。


「じゃあ、忠告したからね」

「……」


そうして先輩は教室を出る。背中には、自分を見る笹岡の視線が最後までつきまとっていた。