「出て行かれました」

「へぇ。出て…………、はぁ⁉」


いやに気怠い体にムチ打ちながら、上半身を起こす。

そして、


「何があったか全て話して」と。


事実無根の安井さんに詰め寄るのだった。



そして――――――
肝心の私は、どこへ行ったかというと。



ガチャ


「ただいま」

「おかえり~、凪緒。家に帰りたいだなんて、急にどうしたの?」

「え、あぁ……うん」


車から飛び出した直後、実家に連絡を入れ「しばらく帰りたい」と伝えた。

お母さんは何も言わなかった。「響希さんとケンカしたの?」とかも一切なし。

短い髪が良く似合う小顔に、おっとりしたタレ目。その瞳は、いつものように私を優しく見つめていた。


「お父さん、家にいる?」

「いつもの書斎にいるわよ、行ってみなさい。凪緒の顔を見たら喜ぶわ。顔には出ないけどね」