もう遅いよ...

『しぃちゃん』



佐和くんの優しい声。

どうしたの?と聞き返す。



『別れよっか』

「え...?なんで?」


思わず疑問を口にする。



『坂村さ、俺に、笠野さんを幸せにしてやってくれ、って言ってきてさ...』
「うん...」

『電話だったんだけどさ、最初し、って言いかけて、笠野って言い直してて、もうその時点で勝てないと思った。俺に気ぃ遣ってわざわざ言い直してさ...』



ああ、マキちゃんはそういう人だった。

人のことを想える、優しい人。




『しぃちゃん』

「...」

『別れよっか』

『しぃちゃん、坂村のこと好きでしょ?』

「...っ、うん...っ」



言おうか迷った。

でも、言わなくちゃダメだと思った。

好きだって、マキちゃんが好きだって...



「ごめっ...私が泣いて...っ」

『ううん、それに、しぃちゃんのためじゃないから』

「うん、」

『俺のっ、ためだから...っ」



優しくて、とっても優しくて、私のことを大切にしてくれた彼の、私につく最初で最後の、世界で1番優しい、真っ白な嘘だから。

「短かったけど...っありがとう、っ」

『こちらこそ!幸せになってね』


「っうん...っ!」