予想外の返答に船橋くんを見ると、前を見る船橋くんの横顔が試合中みたいに真剣な表情で、ドキッとする。


「今しごかれてるのは、全部伏線だと思ってるから」

「伏線……?」

「うん。 いつか俺が誰にも文句言わせないくらい強い選手になる伏線。 この程度のしごきに耐えられなくてすごい選手なんかなれない。 それにコーチが推薦枠の俺に求めてるものも、先輩が俺を疎ましく思う理由もわかるから。 辛くない。 俺にできることやろうって思うだけ」


 そう言った船橋くんは自信に満ち溢れていて、辛い、なんて考えは微塵もなさそうだった。

 ……すごい。

 なんて強くて優しい子なんだろう。

 きっと船橋くんはずっと先の方を見てるんだ。

 それに比べて、前を向くどころか弱音を共有しようとしてた自分が、恥ずかしくなる。


「……あ、血止まった」


 ガーゼを外して傷口を覗いた船橋くんが言って、わたしはすぐさま救急箱から大きい絆創膏を取り出す。


「わたし、貼るよ!」

「え? いや、自分でできま、」

「貼らせてください!」

「あ、あざっす」


 情けない自分から少しでも脱却するために、マネージャーとしてできることがしたい。
 
 そう意気込んだわたしは船橋くんの前にひざまずいて、肘と絆創膏に全集中して貼り付けるも、手が滑ってグチャッとした。

 ハッと船橋くんを見上げる。