「あの」

「はい!」

「全然大丈夫だから落ち着いて。 ガーゼ出してもらってもいいすか」

「あ、はい!」

「もう一枚」

「はい!!」


 船橋くんは手術する天才外科医みたいに落ち着いてわたしに指示しながら自分の肘を処置していく。
 手慣れた様子で患部をグッと押さえて持ち上げ止血する船橋くん。 ひとりで無人島に取り残されても生きていけそう、なんてすこし大袈裟に感心する。

 よく見ると船橋くん、体の至る所に擦り傷がある。
 必然的に先輩に転ばされる姿や、コーチのパワハラまがいなセリフを思い出して、胸が詰まる。


「……コーチも先輩も、いつも今日みたいに厳しいの?」
 

 わたしは救急箱を挟んで隣に座った。

 
「あー……まぁ、そっすね」
 

 少しばつが悪そうにする船橋くんの泥だらけの服や生々しい傷たちに、なぜかわたしの方が泣きたくなる。


「……辛いね」


 それは心身ともに疲れてるだろう船橋くんに同調して出た言葉だったけど、同時に、自分自身に対する言葉でもあった。


「全然」