「……」


 なにも言わない酒々井優成は、両手首のそれもゴトンゴトンと外して机に置いた。

 やっぱり重たい音をたてるそれに、私は絶句する。


 え……?

 なんでおもり?

 体力測定でつけてたの?

 なんで?


 酒々井優成は手首を撫でながらフー……と軽く息をつき、私に流し目を寄越して、フ、と口角をあげた。

 そして、立てた人差し指を口元にあててみせる。


「シー……」


 酒々井優成のほの暗い瞳に、漠然とした恐怖がせりあがって背筋を悪寒がひた走った。


 どうやら私は、見てはいけないものを見てしまったみたいだ。


「……あははは」


 不自然な薄ら笑いを浮かべたのは、恐怖に強張る顔をごまかすためだ。

 私は酒々井優成に静かに見つめられながら、教室後ろの自分のロッカーまで横歩きで移動してジャージを引っ掴む。

 そして脱兎のごとく、教室から飛び出した。


 授業中、誰もいない廊下を全力疾走して、恐怖との相乗効果で盛り上がる心臓はもはや爆発寸前。


 一年三組、酒々井優成。

 平和な普通な男の子。


 ……なんかじゃない。


 絶対、絶対やばい人だ!!