「白井部長、学校辞めるらしい」


 それは、いつものように部室のベンチに座ってスパイクのひもを締めてるときだった。

 サッカー部の同期が〝三年生の兄貴に聞いたんだけど〟と前置きしてそんなことを言うので、手を止めて顔をあげる。

 部長が、学校を辞める?


「え? サッカー部も辞めるってこと?」

「まあそうだろうな」


 言い出したそいつはみんなの注目を集めながら淡々と言ってのける。


「この時期に? えっ、なんで……!?」

「家庭の事情だって。 部長のお父さんがやってる会社、不祥事が出て倒産したらしい」

「うわ、悲惨……」

「なんかメンタルやられちゃったらしいよ。 ずっとうわごとのように『殺されたくない』とか言ってるらしい」


 ……殺されたくない?
 

「なんだそれ、こえー。 阿見先輩も辞めたし、なんか最近不穏だな。 知ってた? 越谷」

「……」


 話を振られた越谷は、皆が着替える部室の隅で背中を向けてPCに向かっている。
 はじめは越谷がいるとみんな恥ずかしがって着替えるのを控えていたけど、最近はもう部員が裸に近いパンツ姿でもお互い平気にしている。


「越谷?」

「……」


 越谷は集中しているのかと思いきや、PC画面は真っ暗でスリープモードになっている。