俺は包丁を取って、こちらに背を向けるおじさんの頭部目掛けて投げる。
 
 すると、ノールックではじき、回転しながら宙を舞った包丁をパシッと捕まえてそのまま水道で洗ってねぎを切る。

 ……相変わらず隙がない。


「はー……今日本気で疲れてんだけど。 こんな日ぐらいゆっくり休ませてくれないかなぁ」

「そう思って、疲れた体に優しい卵とじうどんですよ」


 おじさんは包丁を置いて、お盆の上にホカホカできたての卵とじうどんをのせて持ってくる。

 目の前のローテーブルに置かれた瞬間、察知する。

 これ、毒入ってんな。

 おじさんは口角をあげたけど、眼鏡の奥の目が笑ってない。


「どうぞ、03。 たんと召し上がれ」


 どうやらおじさんは、ゆっくり休ませてくれる気はなさそうだ。