黒い王子と、甘い恋の嘘。



もうその思い出は、記憶は……全部捨てて生きていくんだって思ってた。

思い出せば絶対泣いちゃうし、つらいから。

でも、私は弱い私を変えたくて、だから男嫌いも直すって決めて。

大丈夫。私は少しずつ強くなってるんだもん。

自分にそう言い聞かせながら、目の前のインターホンを押せば。



『乃愛……?』



泣きそうな声が、スピーカーから聞こえてきて。



「うん。乃愛、です……っ」



震えた声でそう返事をすれば、すぐにドアが開いた。



「どうしたの? もう会えないと思ってた……」

「ママ……、あのっ、あのね……?」



──幼稚園のときのアルバムを、見せて欲しいの。


そう伝えると、ママは泣きそうな笑顔で私を中に入れてくれた。


リビングのソファーに座って待っていれば、ママがアルバムを持ってきてくれる。



「急にアルバムだなんて、どうしたの? なにかあった?」



優しくたずねてくれるママに、私も笑顔を返す。



「黒崎蓮くんっていう男の子が、写ってないかなって思ったの。
今、仲良くしてくれてて……会ったことがある気がして」

「……なにを、言っているの」



──ママの声が、急に低くなった。



「っ、え?」

「乃愛、彼とは今すぐ縁を切りなさい……!
彼は、あなたを苦しめている元凶なのよ?」



がん、と。

頭が鈍器で殴られたように痛くなった。



「な、に? ママ、どういうこと……っ」



アルバムを取られ、私はさらに混乱してしまう。


蓮くんが、私を苦しめてる……?

確かに、婚約者候補がいたって聞いた時は苦しかったけど……。



「乃愛、覚えてないの?
乃愛が男嫌いになったのはあの子のせいでしょう……!?」


ぐらり、とめまいがした。