黒い王子と、甘い恋の嘘。



──ママ。

お父さんと再婚した義理の母親のことは、「お母さん」って呼んでるけど。

本当のお母さんのことは、小さい頃と同じように、「ママ」って呼んでしまう。


……本当におぼろげな記憶だけど、ママは優しい人だった。

いつもニコニコ笑ってて、でもダメな時はちゃんと注意してくれる、そんな人。

私はママが、大好きだった。

……でも、ある日。

施設で育ち、愛に飢えていたママは……お父さんの海外出張が始まったのと同時に、ヒステリーを起こすようになった。



「あんたがっ……!! あんたが生まれて来なければ、私は幸せにあの人と暮らせたのよ!!」



小学生の頃は思い出すだけで過呼吸になった、その光景。

ずっとずっと。今もママの声が脳にこびりついて、離れない。


一ヶ月後には、お父さんが海外出張から帰ってきて、ふたりは離婚して、私の親権はお父さんが取ったけど。

それから何年経っても忘れられない、つらい記憶。


──でも、それでも。

蓮くんとの間にある、私が知らない“事実”が、ママの元にあるのなら。



私は、それを知りに行きたい。