黒い王子と、甘い恋の嘘。



「ねぇ、瀬那ちゃん……! どういうこと……?
私と蓮くんはどこで会ったの? 瀬那ちゃんは何を隠してるの……っ?」



腕を引っ張られて必死に着いて行きつつも、答えを聞き出そうとする。

瀬那ちゃんはそんな私を一瞥して、また歩みを速めた。



「瀬那ちゃん待って、教えて……!」



慌てて追いかけようとした、その瞬間。

ガッと、木の根につま先が引っかかって。


どさっ。

私は前のめりに手をついて、思いっきり転んでしまった。



「乃愛……!」



瀬那ちゃんが慌てて駆け寄ってきて、私を起こそうと手を差し伸べてくれる。


でも。

私はその手を見つめて、思わずうつむいた。



「……瀬那ちゃんは、……私が知らないその“事実”があるから、私と友達でいてくれてるの……?」



ぽつりと零れた言葉に、瀬那ちゃんが大きく目を見開いた。



「そんな訳……! ……っ」



──否定は、してもらえなかった。


ぐっと唇を噛み、転んだ痛みを堪えて自力で立ち上がる。



「……ずっと、無理させちゃってたんだね。
気づかなくてごめんね、瀬那ちゃん」

「違う……!! 乃愛、私はっ」



もうとっくに、心の限界を超えていて。

私は涙を堪えながら、精一杯笑ってみせた。



「私はもう大丈夫だよ。……今まで付き合わせてごめんね」



瀬那ちゃんが私を呼ぶのにも振り返らず、私はきびすを返して走り去った。