黒い王子と、甘い恋の嘘。



「な、に……? どういうこと……?」



何も知らない、知らなかったことの恐怖に、心が支配されていく。


私が知らない事実が、私と蓮くんの間にあるの?

じゃあどうして、私はそれを知らないの……?

こわくて、理解できなくて、頭が真っ白になる。


思わずすがるような視線を瀬那ちゃんに向ける。

瀬那ちゃんは迷ったような沈黙のあと、私の目をしっかり見つめて、首を横に振った。



「気にしなくていいよ。乃愛はこれ以上苦しまなくていい。……ほらっ、行くよ」



瀬那ちゃんに手を引かれて、その場から離れさせられる。


──待って。

そう言いたいのに、なんだか言えない。

瀬那ちゃんは空手をやっているのもあって力が強いし、振りほどけない。



「乃愛……!」


蓮くんの声に振り返ることもできず、私は瀬那ちゃんに連れられてその場を去った。