黒い王子と、甘い恋の嘘。



「ぇ……っ」

「急に言ってごめんね。でも、俺はずっと、乃愛のことを想ってる」



嘘……でしょ?

それじゃあ、そんな……っ。



「私……っ」


「ね、だから俺のこと選んで……?
俺なら、蓮とは違って、乃愛を、乃愛だけを愛してあげられるから」

「理央、く……」



理央くんが私に向けてくれたのは、絶対が確約された愛。

私を、愛してくれる。


……でも……、え……?

それは、まるで。



「蓮くんが、他の女の子とも仲良くしてるみたいな言い方、しないで……っ」

「……ごめん、傷付けたね。でも、本当なんだ」



理央くんは苦しそうに顔をゆがめて、呟くように言った。



「……蓮には、婚約者候補が数人いるよ」

「……っ、え……っ」



一瞬で、視界が揺れ始めた。

浮かんでしまった涙は、ぼたぼたと落っこちて、制服と地面に染みを作っていく。

かく、と。力が抜けて、膝をついてしまう。




「じゃあなんで、嘘でも私と付き合うなんて……っ」

「──乃愛は利用されたんだ」



私の前にひざまずいて、ハンカチを差し出してくれる理央くん。

抑揚を消したような声に、顔を上げると。



「……あんなクズより、俺の方が良くない……?」



うっすら、ほんとにうっすら。

薄い涙の膜で、理央くんの瞳が覆われていく。



「乃愛……、俺、待つから。だから、俺のことを好きになって。俺に気持ちを向けて……?」



震える手で、肩を掴まれ、抱き寄せられる。



「理央くん……」

「……蓮じゃなくて俺を見てよ」




──彼の唇が、私の喉、次に首に触れた。



──『喉にキスされるのは、自分のものにしたいっていう支配欲の表れ。首へのキスは、執着心なんだよ』


瀬那ちゃんに教えてもらった、キスの意味。

どくんと、心臓が大きく脈打つ音がした。