黒い王子と、甘い恋の嘘。




──理央くんが、目を大きく見開いた。



「え……?」

「お兄ちゃんから聞いたんだ。理央くん、蓮くんと仲がいいんだよね?」

「……乃愛」

「……知ってる、でしょ? 私が、蓮くんと嘘の恋人同士だって」



無理やり笑おうとするけど、口角が上がらない。

そんな私に気づいたのか、理央くんは苦しそうに顔をゆがめている。



「私、七月の終業式の日で、蓮くんとは別れることにしたの」

「……理由、聞いていい?」

「……っ。それは、私が、」



──喉がつっかえたように、言葉が出なかった。

何度も言おうとするけど、どうしても言えない。

──言ってしまったら、認めるのと同じだから。



「いいよ、乃愛。無理しなくて。
つまり、蓮と別れる理由として、『俺が好きで付き合い始めた』っていう事実が欲しい。でも、それはフリだけでいい、と」

「うん。迷惑なのはわかってるけど、理央くんにしか頼めなくて……っ」



──理央くんは優しい。

その優しさに甘えてしまう私は、最低だ。



「わかった。引き受ける」

「ほんとに、いいの……っ?」

「いいよ。大切な子のためだから」



優しく、優しく笑ってくれる理央くんに、涙が溢れ出す。



「こんなに重たいもの抱え込んで、つらかったでしょ。今度は俺と半分こしよ?」



ぽんぽん、と。優しく頭をなでられて。

涙をこれ以上堪えるなんて、到底無理で。

私は彼にしがみついて、子供のように泣きじゃくってしまった。