その後、丸一日。
不思議と、涙は出なかった。
きっとどこかで、気づいていたから。
蓮くんが私のことを想ってるわけない、って。
だからこそ、この気持ちだけは認められないんだ。
……でも、考えてしまう。
もし、私が嘘恋ゲームをやってなかったら。
もし、私が彼に似合うような女の子だったら。
……意味なんかないのに、どうしても考えちゃうんだ。
人がいなくなった教室の自分の席で、そんなふうにぼうっとしていたら。
「──白雪乃愛ちゃん。俺を呼び寄せたのは君で合ってる?」
穏やかな声が聞こえてきて、私は慌てて立ち上がった。
「っはい、そうですすみません……!」
「……ふふ、敬語とかいいよ。
久しぶりだけど、俺のこと覚えてた?」
「えっと、うん! 私たちが小一と小三の時だよね」
「うん、そう。親の都合で、乃愛がいる小学校に半年だけいたよ」
にこりと、王子様スマイルを浮かべた彼が、胸に手を当てる。
「あの頃は相沢を名乗ってたけど、本当は違うんだ。
──改めまして、一条理央です」
──そう、一条先輩……ううん、理央くん。
理央くんは、私の大切な友達。
男の子と話せないことが原因でいじめられていたときに助けてくれた、私の恩人でもあるんだ。
理央くんとなら、話せるから。
こんなことを頼めるのも、理央くんだけ。
「理央くん、お願いがあるんだ」
私は泣きそうになりながら、理央くんを見上げた。
「彼氏のフリをして欲しいの」