「蓮くんっ、今日はどこに行くんですか……?」

「それは……まー、着くまでのお楽しみってことで」

「えぇっ……」



蓮くんの家の車、しかも黒塗りの高級車に乗せられた私。

ガチガチに緊張してたら笑われたし、気を紛らわそうと行き先を聞いてもはぐらかされるし。

むむ……と頬をふくらませていたら、蓮くんがフッと笑みをこぼした。



「なに、拗ねてんの?」

「……もし、そうだって言ったらどうしますか?」

「可愛いなーって抱きしめるけど」

「……っ、じゃあ拗ねてます……っ」

「んは、そーいうのがお好みか」



ちょっと笑った蓮くんに、優しく抱きしめられて。



「……可愛いな、乃愛。世界一可愛い」



甘く囁かれて、ぴくっと反応してしまう。

心臓がつかまれるような感覚と、どきどきと加速する鼓動。

……どうしよう。心臓もたないかも……っ。

早く脈を正常に戻すために、目をそらしてうつむいた、その時。



「蓮様、乃愛様。到着いたしました」



運転手の方の声で、はっと顔を上げた。



「今日もありがと、佐々木さん。
じゃー行ってくる。一時間ちょいで戻ると思うから」

「承知しました」



先に車から降りた蓮くんが、エスコートするように手を差し伸べてくれる。



「ほら」

「あ、ありがとうございます」


その手を取って降りると、そこには。



「わあ……っ!」



ピンクのバラが沢山植えられた、広いバラ園。

駐車場から見下ろすと、一面ピンクで、すっごく綺麗……!



「いい反応。ほんと、連れてきた甲斐があるな」

「だって、凄いです……!
……っあ、私が言ったこと、覚えててくれたんですか……?」



──『私、ピンクのバラがすごく好きでっ』



言ったのなんて、つい昨日。

それなのに、すぐに、こんな素敵なところに連れてきてくれるなんて……っ。



「彼女が言ったことなんだから、覚えてるに決まってんだろ」



当たり前かのようにそう言ってくれる。

嬉しいけど、でも。



「どうしてそんなに、嘘カノの私に優しくしてくれるんですか……?」



だって、おかしいよ。

私たちは、お互いの利益のために、嘘の恋人になったんでしょう……?

そんなに優しくされると、期待しちゃいそうになるっ……。


沈黙がこわくて、おそるおそる蓮くんを見上げると。



「……乃愛が特別だから」



──その言葉に、無意識に呼吸を止めてしまった。