小さい頃読んでいた童話の、憧れのお姫様。

どんな苦境でも、王子様と結ばれる運命なんだなぁって思う。

そんな運命の人が、私にもいたらいいのになぁ……。


そう考えて、──はっとした。

どうして、蓮くんの顔が浮かんだんだろう……っ。

蓮くんとは、嘘の恋人同士ってだけなのに、なんで……。

自分の気持ちに混乱しながらも、私はドレスを着て、そーっとカーテンを開けた。



「着ました……っ」



店員さんと話していた蓮くんが振り返って、──目を見開く。

それから慌てたようにこっちに駆け寄ってきて。

優しく肩を引き寄せられて、抱きつく形になってしまった。



「ひゃ……っ」

「可愛い。すげー似合ってる」



甘く、とろけるような笑みを向けられて、心臓が大きく跳ねる。



「ありがとう、ございます……っ」

「思ったから言っただけだし、お礼なんていーよ。……で、どのドレスが良かった?」



そうたずねられて、思わず考え込んでしまう。



「蓮くんが一番好みなのは、どれでしたか……?」

「俺? どれも似合ってるけど、今着てるのが一番かな」

「じゃあ、私もそれが好きですっ」



にこっ、と笑って、蓮くんを見上げたら。



「……ほんっと可愛い」



ため息をつくようにそう言われて、顔が一瞬で熱くなる。

や、やっぱり、蓮くんは私を照れさせる天才だ……っ。



「じゃ、今乃愛が着てるのお願いします」

「かしこまりました。パーティーの三日前までにはお届けいたしますね」

「よろしくお願いします。
じゃ、乃愛。元の服着て。行くぞ」

「へ……っ? 行くって……」



きょとん、としていると。



「デート。今日は時間あるから」



甘い笑顔でそう告げられて、私は急いで着替えに行ったのだった。