黒い王子と、甘い恋の嘘。




きゅっと唇を引き結んだ私に気づいた蓮くんが、私の顔をのぞきこんできた。



「乃愛? どーした?」

「……蓮くんが遠い、です……っ」

「は?」



立ち止まった私たちに気づいたのか、店員さんたちも足を止めて、私たちを待ってくれる。

とてつもない不安に襲われている私は、余計に焦ってしまって、上手く話せない。

そんな私を見た蓮くんは。


──ぽん。

優しく私の頭に手のひらを置いて、微笑みかけてくれた。



「ゆっくりでいーよ」



……不安だったはず、なのに。

なぜか一気に安心して、涙が浮かんだ。



「こんなきらびやかな場所、私、来たことなくて……っ」

「ん」

「蓮くんは慣れてるのかなって、思ったら、なんか……っ」



待ってもらったのに、上手く話せない。

でも、蓮くんは優しく甘く笑ってくれた。



「俺も、女子と一緒に来たのは初めてだから。
……泣くなよ、カワイー顔が台無し」



そっと、親指で涙をぬぐってくれる。

……余計に、泣きそう……っ。



「面倒くさくて、ごめんなさい……っ」

「は? ……ほんっと……」




彼が深くため息をついた、次の瞬間。

ぐいっと腕を引っ張られて、私は蓮くんの胸に収まった。



「わ……っ、蓮くん……っ?」

「面倒だなんて思わねーし、むしろ歓迎。
素直な乃愛はいっちばん可愛いから」



甘すぎるセリフに、くらりと頭が回りそうになる。

真っ赤に火照った顔を隠したくて、顔を手で覆うけど。



「隠すな。……かわいー顔、見せて」

「だめ、です……っ」



必死に抵抗するも、むなしく。


顔を覆っていた両手を軽く拘束され、絶対赤いであろう顔を晒してしまった。



「や……っ」

「顔真っ赤」



ぎゅうっと目をつむって、羞恥に耐えていると。



「乃愛」



蓮くんの、とびきり甘い声が降ってきて。

そっと目を開ければ、声と同様に甘い笑顔。



「乃愛のドレス姿、楽しみにしてる」




──蓮くんだめです、甘すぎます。