黒い王子と、甘い恋の嘘。

──数時間後。

授業が終わって、まっすぐ帰ろうとしたのに。

なぜか私は、全く知らないきらびやかな場所に連れてこられていた。


「あ、あの、黒崎先輩……っ?」

「なんだよ」

「ここどこですかっ、なんで私、こんなところに……っ」

「ふはっ。誘拐されてるみてーなセリフ」



おかしそうに吹き出した彼は、私の頭に手を乗せ、ようやく説明し出す。

……と、思いきや。



「乃愛が“蓮”って俺の名前呼ぶまで、説明してやらねー」

「えっ……!?」



いたずらっ子のように無邪気な笑みを見せ、私の顔をのぞきこむ。

し、信じられないっ……!



「黒崎先輩、ひどいですっ」

「俺がひどいの、知らなかった?」



……むむむ。

余裕綽々なの、ずるいっ……。

そんな気持ちが顔に出ていたのか、黒崎先輩はフッと笑った。



「むずかしー顔。
せっかく可愛いのに、台無しだぞ」

「も、もともと可愛くないので……!」

「ったく、これだから無自覚は……」



黒崎先輩が何か呟いてる……?

聞き返そうとしたけれど、黒崎先輩はすぐに意地悪な表情に戻った。



「で? 乃愛」

「へっ……?」

「ほら、早く呼ばないと説明ナシになるよ?」



えぇっ……。

説明がないのはさすがに……。

私は観念して、ドキドキしながらも、彼の名前を呼んだ。



「れ、蓮さん……っ」



勇気を振り絞ったのに。



「不合格」

「ええっ……!?」



な、なんでダメなのっ……?

理由がわからなくて泣きそうになっていると。

お砂糖たっぷりの甘い表情で見つめられて、とく、と心臓が音を立てた。



「さん付けはダメ。やり直し」



せーの、と言われ、慌てて口を開く。



「……っ、れ」

「れ?」

「蓮、くん……っ」



身体中を、熱い血液が駆けめぐるような感覚。

恥ずかしくてぎゅうっと目をつむったら、優しい声が降ってきた。



「合格」



声も、表情も、私を抱き寄せた手も、ぜんぶ優しくて。

──嘘の彼女なのに、ほんとの彼女扱いされてる気がしてしまう。

そんな自惚れた気持ちを追い出すために、私は話を戻した。



「あのっ、それで、ここは……っ?」

「ドレスショップ」



端的に答えた黒崎せんぱ……、蓮くんは、口角を上げて、私を見下ろした。



「俺、これでも黒崎グループの次期社長だからさ。会社のパーティーとか出席しなきゃいけないわけ」



心底嫌そうに顔をしかめる蓮くん。

そ、そんなに嫌なのかな……っ?



「だから、乃愛も一緒に来て」



……はい?