──ヴーヴー。

バイブにしていたスマホの音で、目が覚めた。

いつもよりも十五分くらい早い起床時間。

睡魔と戦いながらも、手を伸ばしてスマホを確認する。

電源を入れるとパッと画面がついて。



「まぶしっ……」



その明るさに目を細めつつ、働かない頭で通知を確認もせずにタップする。

メッセージアプリのトーク画面が開いて、新着のメッセージが表示される。

それを見た瞬間、意識が覚醒した。



「く、黒崎先輩っ……!?」


ガバッと勢いよく起き上がって、目をまたたく。

まだ朝早いのに、黒崎先輩起きてるんだ……!


──でも、そんな驚きは新たな驚愕に塗り替えられた。



『おはよ。
まだ寝てたらごめん。起きてたら電話して。乃愛の声が聞きたい』



どく、と。

心臓が、一際大きく音を立てた。


私の指はいつの間にか動いていて、呼び出しのコール音が鳴り始める。

コール音が三回鳴らないうちに、プツッと切れて。



「もしもし。乃愛?」



優しい声が、聞こえてきた。



「黒崎、先輩……っ」

「んは、そーだよ。黒崎先輩です」

「お、おはようございますっ……」



通話口の向こうで、おかしそうに笑う声が聞こえてくる。



「乃愛はほんと律儀だよなぁ。ん、おはよ。起こしちゃった?」

「はい。でも、黒崎先輩の声が聞けて嬉しいです」



どうしよう。声、寝起きっぽかったかな。

気を遣わせてしまった申し訳なさを感じつつ、素直な気持ちを伝える。

すると。



「……ほんっと、この無自覚女子は……」


よくわからない、呆れたような呟きが聞こえてきて。でも、次の瞬間には。



「俺も乃愛の声聞きたかった」



なんて、甘い声で囁くから。


ずるい。ずるいよ、黒崎先輩。

そういうことは、嘘カノの私にしちゃダメだよ……。



「なー、乃愛」

「は、はいっ」



呼ばれていることに気づいて、慌てて返事をする。

そしたら、またあの甘い声で。



「乃愛に会いたくなってきた。今日の昼休み、バラ園で待ってるから。
……ちゃんと来いよ?」

「はいっ……! 行きますっ」

「ん。じゃあ、また学校で。
……声聞けて嬉しかった」



ボソッと、照れたような声音で最後に爆弾を落とされて。


プツッ、プープー……。

電話が切れて数秒たってから、私はそっとスタンドミラーを覗き込んだ。


そこに映るのは、ほんのり顔を赤く染めて、ほっぺゆるゆるな私。

どうしよう。なんだか、すごく幸せ、かも……。


頬が熱い。

それだけじゃなくて、全身の血が沸騰してるみたいに熱い。


その熱の原因は、はっきりとはわからないけれど。

それでもきっと、私をこうさせるのは、黒崎先輩だけ。

その事実に、どきどきと鼓動が加速するのがわかった。