黒い王子と、甘い恋の嘘。




「……じゃあ、黒崎くんに半ば脅された、と」



事情を一通り話すと、怒ったような、でも心配そうな表情をされてしまった。



「う、うん。でも、私の苦手克服にもなるし、納得してるんだ」

「乃愛がいいならそれでいいよ。でも、つらくなったら言って」



若干眉を吊り上げながらも、優しい言葉をかけてくれるノドカくん。

私は優しい兄に恵まれて、幸せだなぁ。

そんなことを思いながら、うんって頷く。



「つらくなったらちゃんと言うよっ」

「約束だからね。のあはすぐ抱え込むから」



……私、信用無さすぎじゃない……っ?

少なからずショックを受けていると、追い打ちのように中々辛辣な言葉が飛んできた。



「乃愛はさ、悩み事の相談とかしたくてもできないタイプだもんね。
……あ、約束破ったら怒るからね」



有無を言わせぬにっこり笑顔に、肩を縮める。

……言い返す言葉が見つからない……っ。

なんだか悔しくて、むーっと頬をふくらませていたら。



「……ねえ、乃愛」



ふと、抑揚を殺したような声が落ちてきて、顔を上げる。

ノドカくんは私を見て、苦しそうに顔をゆがめた。



「……男嫌いの克服を手伝ってもらうなら、別の男の子の方がいいんじゃない?」

「っ、え……?」

「だって、あの黒崎くんだよ? 乃愛はほんとにいいの?」

「へ……? あっ、モテるからってことなら大丈夫だよ! 自分の心を強くするためでもあるし、心配しないで」



にっこり笑ってみせると、ノドカくんは何か言いたげな顔をしながらも頷いてくれた。



「……わかった。乃愛、くれぐれも無理だけはしないでね」

「うんっ。約束します!」


大きく頷いてから、ごちそうさまでした、と手を合わせる。

食器をシンクに運んで洗い始めたから、ノドカくんの苦しそうな表情には気づかなかった。




「──なんで、よりにもよってアイツと……」




──私はまだ、思い出さない。