「白雪さん」
彼女に呼ばれたのは、その日の放課後だった。
家の事情で部活はしてないから、黒崎先輩を待つために、教室で自習を始めたんだけど。
ピアノ部に所属する、学年の女王様的存在の彼女・相園りりかさんに、急に呼ばれちゃった……!
相園さんとはクラスメイトだけど、ほとんど接点がなくて、話してみたいなって思ってたんだ。
「相園さんっ。なぁに?」
「何、じゃないわよ!」
急に声を荒げられて、びくっと肩が震える。
相園さん、怒ってるのかな……?
私、何をしちゃったんだろうっ……!?
冷や汗が流れるのを感じながら、おそるおそる相園さんと目を合わせる。
いつの間にか、相園さんの取り巻きの子たちに囲まれていて、少しこわくなる。
「黒崎先輩と付き合ってるって、どういうことよっ」
……へ……?
「あの、えと……」
「あんたなんか、黒崎先輩に釣り合わないじゃない!」
「そうだよ! 相園さんがかわいそうでしょ!?」
口々に責められて、ぱち、とまばたきをする。
「相園さんは、黒崎先輩のことが好きなの……?」
「そうよ」
なんのためらいもなく、彼女は答えた。
「私は黒崎先輩が好き。あなたなんかよりもずっと前から、好きなのよ」
……そう、だったんだ。
「……九月」
相園さんが瞳をするどくして、私をにらみつける。
「九月の始業式までに、黒崎先輩と別れて」
「っえ……」
「別に今すぐでもいいのよ。でも必ず、九月までには別れてちょうだい」
九月……って……。
「そっかっ、相園さんのお誕生日、九月だもんね……!」
ようやく思い当たって、相園さんに笑顔を向ける。
「自分の誕生日は、好きな人と過ごしたいよね……! わかった! 約束するっ」
「……はぁ?」
「黒崎先輩とは、九月までに別れるね」
すると、彼女は眉間にシワを寄せた。
「何を言って……」
「黒崎先輩も、相園さんに想われてるなら幸せだね……!」
相園さんたちは、私に怪訝な目を向けて、逃げるように教室から出ていってしまった。
ど、どうしたんだろうっ……?
相園さんとは仲良くなれたらいいなって思ってたんだけど、嫌われちゃったかな……。
肩を落としてうつむいた、その時。
「──蓮、いけー!!」
男子の大きな声が聞こえてきて、すぐ横にある窓に目を向ける。
窓ガラス越しに見えたのは、黒崎先輩が華麗なシュートを決めた瞬間だった。
「黒崎先輩、サッカー部だったんだ……」
ぽつりと零れたつぶやきが、空中に溶けていく。
……私も……久しぶりに、サッカーやりたいな。
そんな願いを押し殺そうとしたとき。
──ばちっ。
黒崎先輩と、目が合った。
あまりにも真剣な瞳に、目をそらせないでいると。
「乃愛!」
そのまま大きな声で、名前を呼ばれて。
私の体は、考える間もなく動いていた。
