黒い王子と、甘い恋の嘘。




真っ赤なバラが、たくさん咲き誇っていた。


バラ園、なのかな?

すごく綺麗っ……!



「気に入った?」

「はいっ……! でも、校内にこんなところありましたか……?」

「裏庭で全く人来ないから、たぶん俺だけ知ってた場所。
綺麗だろ? 今、ちょうど春バラの時期だから」



乃愛に見せれて良かった。と笑う彼に、目を丸くする。



「私に教えちゃったら、何度でもここに来ちゃいますよ? せっかく黒崎先輩の秘密の場所だったのに、いいんですかっ……?」

「さっきも言っただろ。
俺が優しくすんのはお前だけ。俺が特別扱いしたいのも乃愛だけ。

……これからは、俺と乃愛、二人の秘密な?」



いたずらっぽく笑った黒崎先輩が、繋いでいた手を握り直してくる。

絡めてる自分の指が熱を持ち始めて、それが全身に回っていく。


どきどきして、ただ熱くて、頭が働かなくて。


こく、と、頷くのが精一杯。


黒崎先輩との秘密が、またひとつ増えちゃった。

秘密を抱えるのは苦手だったはずなのに、どこかで嬉しさを感じてる私がいる。



「黒崎先輩は、何色のバラが好きですか?」

「……ッ」



黒崎先輩が息をのんだように見えて、首を傾げる。

この質問、ダメだったのかな……?



「……乃愛は?」

「えっ」



質問で返されたっ……!



「私、ピンクのバラがすごく好きでっ。
ピンクのバラって、花言葉のひとつに“愛の誓い”っていうのがあるんです……! すっごく素敵だと思いませんか?」



目をきらきらさせて、笑顔を向けてから気づく。


……私、ものすごい熱弁したよねっ……?

仮にも彼女なのに、やらかしたっ……!



「す、すみません……」


しおれるように小さくなり、うつむくと。



「いーじゃん」



優しい声が降ってきて、思わず顔を上げた。



「ピンクのバラ、な。乃愛が好きな花、覚えとく」



甘い表情で、笑う。

でもその瞳の奥には、何か──もっと別の、苦しそうな色。


でも、ちがう。苦しさじゃない。

寂しさでもない。

……切なさ、かもしれない。


ふと、感じた。

彼は私を誰かと重ねて見ている。


──例えるなら。

決して叶うことのない片想いの相手を私に重ねて。

その切なさを、寂しさを、埋めようとしているような。

でも、切なさや寂しさの中に、……なんだろう。


……罪悪感から何かを償っているような、そんな気持ちが混じっている気がする。


この気づきを伝えていれば、良かったのかもしれない。

でも私は、彼の瞳から逃げ、うつむくことしかできなかった。