黒い王子と、甘い恋の嘘。




私が目を見開くと、瀬那ちゃんがとなりで困ったように笑いながら、囁いてきた。



「行ってきなよ」

「えっ……?」

「乃愛も、黒崎先輩には心を許し始めてるんでしょ。十分伝わってきたし、納得。
大丈夫だから、行ってきな」



私はこくりと頷き、差し出された手に視線を戻す。



「……あ、まだ触れんのはこわいか」



そう呟いて、手を引っ込めようとした黒崎先輩。

私はその寸前で、彼の手に自分の手を重ねた。



「……え、は? 乃愛……」



おそるおそる、恋人繋ぎになるように指を絡める。

それから、黒崎先輩を見上げると。



「……っ」



彼は一瞬息を飲んだけど、すぐに甘い笑みを浮かべ、反対の手で私の頭を撫でてくれる。



「できたじゃん。一歩前進だな」

「えへへっ。ありがとうございます!」



思わずはにかむと、瀬那ちゃんが小さく息をついた。



「黒崎先輩、乃愛のことお願いします」

「もちろん」



フッと笑った彼は、私の手を引いて歩き出す。



「あ、あの、黒崎先輩……っ」

「乃愛のことは俺が守る。佐川さんにも頼まれたし……、なにより、俺の彼女だから」

唐突な宣言にびっくりしながらも、体温が急上昇した。


……そんなの、まるで。



「私のこと、本物の彼女みたいに扱ってくださって……。ありがとうございます」

「……。当然だろ?嘘だとしても、乃愛は俺の彼女」

「ふふっ……。黒崎先輩は優しいですね」


そう言ってみたけど、心臓の鼓動が速い。


学園の王子様にそんなこと言われたら、そりゃあみんな落ちるよね……っ。

黒崎先輩がモテる理由、わかったかもしれないっ。

でも、それを色んな人にやってるっていうのは、ちゃらい……。



「俺が優しーなんて、乃愛はほんっとーにバカだな」



えっ……!?

な、なんか、バカって言われた……!

かなりのショックを受けていると。



「俺が優しくすんの、お前だけだから」




──黒崎先輩。

その真剣な瞳が、嘘をついているようには見えないよ……。


黒崎先輩は軽口叩くし、すぐにからかってくるし、最初から脅してくるし。

でも、……瞳も、表情も、仕草も、ぜんぶ優しくて。

それを言ったら、私だけ特別、みたいな表現して。


私は、どういう類の“特別”なのっ……?


特別扱い、しないでほしいっ……。

私はまた、頼って、甘えてばかりになって。


──また、嫌われちゃう。


黒崎先輩には、絶対に嫌われたくないんだもん……。



「……乃愛、そんな悲しそうな顔すんな。ほら」



いつの間にか、“秘密の場所”に着いていたらしく、私は我に返って顔を上げる。

そこには。



「わあぁ……っ!」