黒い王子と、甘い恋の嘘。



中庭のベンチに座ってすぐ。

瀬那ちゃんが完全にお怒りの表情で、私を見てくる。

こ、こわいっ……!!



「あ、あのぅ、瀬那ちゃん……」

「さて、何に関してのお説教から始めようか。いっぱいありすぎて困るね」



にっこりと口元を笑わせ、でも目の奥には一ミリも優しさなんてない。

まずいっ、瀬那ちゃんが本気で怒ってる……!



「乃愛は彼女の役目もわからないのに、彼女のフリを承諾した。イエス、オア、ノー」

「い、イエスです……」

「昨日一緒に帰ったって噂になってるけど、その時に質問しなかった」

「イエス……」

「その辺の女子共から妬まれ、嫌がらせを受けるリスクを承知でゲームに乗った」

「……イエス……」

「バカッ!!!!」



瀬那ちゃんが怒鳴って、私はひぃっと縮こまる。

2択でしか答えさせてもらえないし、イエスしか言えないし、これはきついよっ。



「自分を傷つけてまで相手に協力するなんてありえないよ!?」

「すみません……」

「しかも乃愛、男は無理で、恋愛経験ゼロなんだよ!? 自分がつらくなるだけでしょうがっ!!」

「でもっ、黒崎先輩の前で笑えたもんっ……!」



必死に声を張り上げると、瀬那ちゃんの動きが止まった。



「……笑った? 黒崎先輩の、男子の前で?」

「うん。自然と笑えたの!」

「……嘘でしょ……。乃愛、男子とは目も合わせられなかったよね?」

「う、うん」

「黒崎先輩、実績があるのかー……。なら認めないわけでもないけど?

……でもやっぱり許せないっ!! 私の可愛い乃愛をゲームに巻き込むなんて……!」



また烈火のごとく怒り出してしまった瀬那ちゃんに、どうしたらいいかわからずオロオロしていると。



「……見つけた、乃愛」



優しい声が聞こえてきて。

私はぱっと、勢いよく振り向いた。



「黒崎先輩っ。こんにちは……!」

「こんにちはって……。他人行儀だなー。俺たち“コイビト”なのに」


目の前に立っていたのは、“嘘カレ”の黒崎先輩。

さらりと、恥ずかしげもなくそう口にされ、顔が熱くなる。



「こ、恋人ですけどっ、それはフリだけで……!」

「乃愛」



彼の人差し指が、私の唇を押さえた。



「二人きりだとしても、学校では恋人演じろ。ボロは絶対出すな。誰がどこで見てるかわかんねーんだから」



り、理解はしたけど、顔近い……っ!

あまりの至近距離に、私が硬直していると。



「悪い、近かったよな」



黒崎先輩はそれにすぐ気づいて、少し距離を空けてくれる。



「い、いえっ……」



小さくそう言って、うつむく。

……まだ、距離が近すぎるのはこわい、かも……。

私ってダメだなぁ、と自己嫌悪に陥ってしまう。

唇を噛んで、私が黙り込むと。



「……ん、乃愛。ちょっと来てくんね?」



優しい声と共に、うつむいた視界に黒崎先輩の手が映った。

そっと顔を上げれば、黒崎先輩は優しい表情で私を見つめて、手を差し出してくれている。



「とっておきの、秘密の場所。連れてってやる」



……秘密の、場所……?