黒い王子と、甘い恋の嘘。




バイクの後ろで、一人悶々と考える。

……昨日も、黒崎先輩の彼女としてどう振舞ったらいいのかを考えてたら、いつの間にか一時になってたんだ。


女嫌いの黒崎先輩に、女の子たちを近づけさせない……いわばナイト的な立ち位置?

でも、それはなんだか、彼女っぽくない気もするし……。

“彼女って、具体的になにをするの?”

……っていうところで、思考停止しちゃってる状態。

今はさらに遡って、『彼女の定義とは』ってところに陥ってる。


私、彼女なんて引き受けちゃったけど、恋愛経験ゼロだよ……っ?

どうしよう……っ。

このままじゃ、黒崎先輩の足を引っ張りまくっちゃう……!


思わず泣きそうになった、その時。



「乃愛、着いたよ」



ノドカくんの優しい声で、はっと我に返った。

周りを見れば、そこは校門の前。

周りの生徒たちが、ものめずらしそうに、バイクの後ろに乗った制服姿の女子──私を見てる。


ちゅ、注目を浴びちゃってる……!

冷や汗をかきながら、バイクから降りてお礼を言う。



「ノドカくん、送ってくれてありがとうっ……! ほんとに助かった……!」

「どういたしまして。ほら、早く行きな」

「あっ、うん!」


こくりと頷いて、ノドカくんに手を振る。



「デート楽しんでねっ……!」

「ちょっ、ここで言わないでよ」

「あわっ、ごめん! じゃあ行ってきます……っ!」


最後にもう一回手を振って、昇降口へと歩く生徒たちの中に混ざる。

すると。



「乃愛~~~っ!!」



横から勢いよく飛びつかれて、思わず数歩よろける。

顔を上げると、ショートカットの美少女が私に抱きついていた。



「瀬那ちゃん……!」



笑顔になりかけて、……顔をひきつらせてしまう。

瀬那ちゃんの目が、とてつもなくギラギラしてるっ……!!



「さっきのイケメン誰!? 黒崎先輩の彼女のフリしてるのに、まさか本物の彼氏……?」


最初の方は声が大きかったけど、二言目は周りの視線を気にしてくれたみたい。

……イケメンって、もしかしてノドカくんのこと、かな。



「ノドカくんだよっ。瀬那ちゃんも何度か会ったことあるでしょう? 私のお兄ちゃん!
寝坊しちゃったから、送ってくれたの!」



笑顔でそう言うと、瀬那ちゃんは目を丸くした。



「うっそ! ノドカさん!?
かっこよくなっててわかんなかったー!」

「そうだよ、ノドカくんだよ~?」



笑いながら頷くと、瀬那ちゃんが不思議そうに首を傾げた。



「乃愛って、ノドカさんのこと“お兄ちゃん”って呼ばないよね。なんで?」

「えっとね。ノドカくんは義理のお兄ちゃんなの。私、年少さんの時、親が再婚したでしょ?」

「そういえば、そうだったかも……」

「うん。最初の頃、恥ずかしくて“お兄ちゃん”って呼べなくて。そしたら、『ノドカくん』でいいよって」

「うっわ、優しい……!
うちの兄ちゃんとは大違いだなあ」



羨ましそうにそう言われて、ぱち、と目をまたたく。



「瀬那ちゃん、お兄さんと仲悪いんだっけ?」

「今日の朝だって喧嘩したよ!
乃愛はこれからも、ノドカさんと仲良くね!」

「うんっ。私、ノドカくん大好きだもん~っ」



いたずらっぽく笑ってみせると、瀬那ちゃんが「リア充め!」ってわざとらしく肩を叩いてくる。

り、リア充とは違うと思うっ!

心の中で否定しながら、瀬那ちゃんの発言にまた笑った。



──黒崎先輩が最後の言葉だけ聞いていたことには気付かず、無邪気に笑っていた。