五月。ステラ学園高等部に入学して、1ヶ月がたったある日のお昼休み──。

私・白雪乃愛は、中庭のベンチで、幼なじみの佐川瀬那ちゃんに泣きついていた。



「瀬那ちゃん、どうしようっ……」

「ええ、私に言われても。
乃愛はモテるし、仕方ないでしょ」



実は最近、多数の男子生徒に度々話しかけられるのだ。

しかも、毎日1回は必ず。

それは今日も例外でなく……。



「あの、白雪さん!」

「ひゃっ……、ご、ごめんなさいっ!
失礼します……!」



毎日、このやり取りを繰り返しております。



「乃愛さあ。男嫌いはわかるけど、相手の顔すら見ないのはどうかと思うよ?」



……うっ。




「そう、だよね……」



しゅん、と肩を落としてうつむく。

私は幼稚園の頃のあるトラウマで、男の子がこわくなって。

もう高校生だし、男嫌いを治したいとは思ってるけど……、でもやっぱりこわくて。



「どうしよう、私、このままじゃ彼氏できないっ……」

「男の子恐怖症の割には、恋愛願望あるのね」



瀬那ちゃんの的確なツッコミに、うっ、と言葉を詰まらせる。

自分で自分に悲しくなりながら、ぐっとこぶしを握って宣言した。



「私、次に男の子に話しかけられたら、ちゃんと顔見て、話してみるっ…!」

「最初からハードル高い気もするけど……、うん、頑張れ!」



瀬那ちゃんにも応援して貰えたし、今度こそ失礼のないようにしたいっ……!

私がこくりと頷いた、その時。



「──見つけた」



そう声がして、反射的に顔を上げる。

そこにいたのは。



「学園のお姫サマ、白雪乃愛ちゃん。よーやく発見」



フッと笑う、1人のイケメン男子。
男の子が苦手な私でも知ってる、学園の王子様。

──黒崎蓮、先輩。



襟足の長い、艶のある黒髪。

吸い込まれそうな、黒い瞳。

色気のある、整った形の赤い唇。


大企業である黒崎グループの御曹司で、次期社長。

「彼と結婚すれば玉の輿だよ!」って、クラスメイトの女の子が話してた、かも。


びっくりするほど整った彼の容姿を初めてちゃんと確認し、固まっていると。



「俺とゲームしない?」



さらりと放たれたその言葉に、目をぱちくりさせた。